「ばかやろー!」
【動画もあるぞばかやろー!】
「はやく歩けー!」
神社へ向かう“天狗”の行列に、悪口を吐きつづける人々。黒い烏帽子、白装束をまとった13人の天狗の多くは年配者です。重い足取りで山を登る彼らに、若者たちは笑いながら言い放ちます。
「遅いぞー! 歳とってるからって許されるもんじゃねーぞー!」
ああ、若者が伝統行事を荒らしている……わけではありません。これは「悪態まつり」といって、天狗にどんな悪口を言っても許されるというお祭り。茨城県笠間市「愛宕神社(あたごじんじゃ)」が主催する奇祭で、今年は去る12月16日に行われました。
●冬空の下、飛び交う罵声
快晴の冬空の下、愛宕山のふもとをスタートした神主さんと13天狗。てっぺんの愛宕神社境内「飯綱神社(いいつなじんじゃ)」を目指しながら、計16カ所のほこらにお供え物をして回ります。標高306メートル、道のり約4キロ。どんな罵声を浴びようが、天狗は「無言の行」をしているため何も言い返しません。
よし、自分もなにか悪口を……とは思うもののなかなか言い出しづらい。天狗たちが長いお鼻の天狗面をつけるのは最後に待ち受けるクライマックスのときのみ。見た目はただのおじいちゃんなので、いきなり罵声を浴びせていいものなのか……。
「どうぞこの天狗たちに悪口を言ってください。ばかやろー!」
行列と一緒に歩いているお祭りの先導さんが、拡声器で参加者をあおりつつ、天狗に罵声。筆者の隣にいる常連っぽい人も、笑顔で大きく叫びます。
「もっと若いヤツ集められなかったのか、ばかやろー!」
うおお、むごい。でもそうだ、悪態をつくことで御利益があるお祭りだもんね。よし、自分も。
「ばかやろー!」
みんなで伝統行事に参加している感じが楽しくて、つい笑顔に。畑が周りに広がる解放的な場所で、普段は言えない乱暴な言葉を叫ぶのもスカッとします。
●一度は途絶えたものの、10年前に復活
天狗に悪態をつくことで、体にある罪や“けがれ”を追いだす――天狗を引き連れる愛宕神社の神主さんは解説してくれました。
「神社では“みそぎ”や“おはらい”で、人々から罪やけがれといった悪いものをはらいます。それでもはらい切れずに残ってしまった悪いものを、悪態をつくことでひとつ残らず吐きだしてもらうのがこのお祭りです」
お祭りが年の瀬に行われるのもそのため。天狗はけがれを引き受けるよう、白装束を着たり、出発前に飯綱神社でおはらいをうけたりします。愛宕神社は806年から存在する、日本三大火防神社の1つ。火の神を祭ると同時に、境内の飯綱神社で天狗を祭っていました。
「なぜ悪態を受けるのが天狗かは、いろいろな説があるんですが結局分からないですねえ。祭りが始まった江戸中期から、天狗と決まっていました」
言い伝えってそんなもの。お祭りは昭和20年(1945年)ごろに途絶え、空白の時を経て10年前によみがえります。現代風にいろいろアレンジしつつも、今も変わらず悪態を引き受ける天狗は、ありがたくて愛くるしい存在。
●お供え物をめぐって――もうひとつの戦い
途中16カ所あるほこらを周りながら、飯綱神社を目指す天狗たち。ほこらに到着するたび、お祭りは盛り上がりを見せます。悪口を吐き出すこととは別の悪態、お供え物の奪い合いです。
悪態まつりでは、天狗がほこらに収めた後のお供え物をゲットすると、幸せになれるという言い伝えがあります。参加者は先回りしてポジションを争うなど、御利益を巡った激しいバトルを繰り広げます。
お供えとお祈り中は、天狗たちは青竹で叩いたり体を入れこんだりして、参加者からお供え物をガードします。ほこらの周りは押し合うわ掴み合うわでめちゃくちゃ。リングからこぼれたバスケットボールを狙うゴール下みたい。
争奪戦はほこらごとに行われ、全部で16回。ほこらの環境や奪い合いの趣向が異なるおかげで、それぞれ違った盛り上がりを見せます。もはや一種の競技。これも御利益ある“悪態をつく”行為なのです。
●クライマックスはみんなで「ばかやろー!」
天狗たちは16カ所のほこらを回ったのち、赤い天狗面をつけていよいよ愛宕神社の縁側へ。境内にはこの日一番のお客さんの数。天狗たちは中から参加者たちがいる外へ餅やら菓子やらをばらまきます。
悪口もヒートアップ。
「こっちにもよこせ、ばか天狗―!」
「痛いぞ、ばかやろー!」
確かに痛い! 上から次々と降り注ぐ餅が頭や顔に当たる。ばらまかれたお供え物に群がる参加者が後ろからぐいぐいと押してくるので、筆者も思わず悪態を吐きます。お互いにもみくちゃになりながらも、会場の野次はどんどん増していき、お祭りの活気は最高潮へ。
「まだ足りねえぞー!」
お面をつけた天狗たちへ、悔いを残さないようにとお客さんが悪態をつきまくります。お供え物をばらまきつくし、天狗たちは参加者たちを叩きまくった青竹まで大放出。これがまた大人気で、1本をめぐって6人くらいが引っ張り合いするほどでした。
最後は13天狗が縁側で横並びします。先導さんの合図で、場内みんなで最後の悪口です。1、2、3っ
「ばかやろー!!」
生まれる拍手。なんだこの出し切った感じ、気持ちいい。1カ所目から天狗に悪態をつきつづけてきた高専生8人も、気持ちよかったと笑顔。
「卒業旅行にいいお祭りはないか、県内を探してやってきました。お供え物の奪い合いでライバルとかも生まれて楽しかったです!」
昨年よりも参加者が多かったという悪態まつり。毎年12月第3日曜日の開催で、次は2013年12月15日です。奪い合い観戦が楽しすぎて、気づくと手の中にはお供え物が何ひとつなかった筆者……ばかやろー!
【関連記事】
・できるかな?:キルギスでキリギリス探してみた
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【動画もあるぞばかやろー!】
「はやく歩けー!」
神社へ向かう“天狗”の行列に、悪口を吐きつづける人々。黒い烏帽子、白装束をまとった13人の天狗の多くは年配者です。重い足取りで山を登る彼らに、若者たちは笑いながら言い放ちます。
「遅いぞー! 歳とってるからって許されるもんじゃねーぞー!」
ああ、若者が伝統行事を荒らしている……わけではありません。これは「悪態まつり」といって、天狗にどんな悪口を言っても許されるというお祭り。茨城県笠間市「愛宕神社(あたごじんじゃ)」が主催する奇祭で、今年は去る12月16日に行われました。
●冬空の下、飛び交う罵声
快晴の冬空の下、愛宕山のふもとをスタートした神主さんと13天狗。てっぺんの愛宕神社境内「飯綱神社(いいつなじんじゃ)」を目指しながら、計16カ所のほこらにお供え物をして回ります。標高306メートル、道のり約4キロ。どんな罵声を浴びようが、天狗は「無言の行」をしているため何も言い返しません。
よし、自分もなにか悪口を……とは思うもののなかなか言い出しづらい。天狗たちが長いお鼻の天狗面をつけるのは最後に待ち受けるクライマックスのときのみ。見た目はただのおじいちゃんなので、いきなり罵声を浴びせていいものなのか……。
「どうぞこの天狗たちに悪口を言ってください。ばかやろー!」
行列と一緒に歩いているお祭りの先導さんが、拡声器で参加者をあおりつつ、天狗に罵声。筆者の隣にいる常連っぽい人も、笑顔で大きく叫びます。
「もっと若いヤツ集められなかったのか、ばかやろー!」
うおお、むごい。でもそうだ、悪態をつくことで御利益があるお祭りだもんね。よし、自分も。
「ばかやろー!」
みんなで伝統行事に参加している感じが楽しくて、つい笑顔に。畑が周りに広がる解放的な場所で、普段は言えない乱暴な言葉を叫ぶのもスカッとします。
●一度は途絶えたものの、10年前に復活
天狗に悪態をつくことで、体にある罪や“けがれ”を追いだす――天狗を引き連れる愛宕神社の神主さんは解説してくれました。
「神社では“みそぎ”や“おはらい”で、人々から罪やけがれといった悪いものをはらいます。それでもはらい切れずに残ってしまった悪いものを、悪態をつくことでひとつ残らず吐きだしてもらうのがこのお祭りです」
お祭りが年の瀬に行われるのもそのため。天狗はけがれを引き受けるよう、白装束を着たり、出発前に飯綱神社でおはらいをうけたりします。愛宕神社は806年から存在する、日本三大火防神社の1つ。火の神を祭ると同時に、境内の飯綱神社で天狗を祭っていました。
「なぜ悪態を受けるのが天狗かは、いろいろな説があるんですが結局分からないですねえ。祭りが始まった江戸中期から、天狗と決まっていました」
言い伝えってそんなもの。お祭りは昭和20年(1945年)ごろに途絶え、空白の時を経て10年前によみがえります。現代風にいろいろアレンジしつつも、今も変わらず悪態を引き受ける天狗は、ありがたくて愛くるしい存在。
●お供え物をめぐって――もうひとつの戦い
途中16カ所あるほこらを周りながら、飯綱神社を目指す天狗たち。ほこらに到着するたび、お祭りは盛り上がりを見せます。悪口を吐き出すこととは別の悪態、お供え物の奪い合いです。
悪態まつりでは、天狗がほこらに収めた後のお供え物をゲットすると、幸せになれるという言い伝えがあります。参加者は先回りしてポジションを争うなど、御利益を巡った激しいバトルを繰り広げます。
お供えとお祈り中は、天狗たちは青竹で叩いたり体を入れこんだりして、参加者からお供え物をガードします。ほこらの周りは押し合うわ掴み合うわでめちゃくちゃ。リングからこぼれたバスケットボールを狙うゴール下みたい。
争奪戦はほこらごとに行われ、全部で16回。ほこらの環境や奪い合いの趣向が異なるおかげで、それぞれ違った盛り上がりを見せます。もはや一種の競技。これも御利益ある“悪態をつく”行為なのです。
●クライマックスはみんなで「ばかやろー!」
天狗たちは16カ所のほこらを回ったのち、赤い天狗面をつけていよいよ愛宕神社の縁側へ。境内にはこの日一番のお客さんの数。天狗たちは中から参加者たちがいる外へ餅やら菓子やらをばらまきます。
悪口もヒートアップ。
「こっちにもよこせ、ばか天狗―!」
「痛いぞ、ばかやろー!」
確かに痛い! 上から次々と降り注ぐ餅が頭や顔に当たる。ばらまかれたお供え物に群がる参加者が後ろからぐいぐいと押してくるので、筆者も思わず悪態を吐きます。お互いにもみくちゃになりながらも、会場の野次はどんどん増していき、お祭りの活気は最高潮へ。
「まだ足りねえぞー!」
お面をつけた天狗たちへ、悔いを残さないようにとお客さんが悪態をつきまくります。お供え物をばらまきつくし、天狗たちは参加者たちを叩きまくった青竹まで大放出。これがまた大人気で、1本をめぐって6人くらいが引っ張り合いするほどでした。
最後は13天狗が縁側で横並びします。先導さんの合図で、場内みんなで最後の悪口です。1、2、3っ
「ばかやろー!!」
生まれる拍手。なんだこの出し切った感じ、気持ちいい。1カ所目から天狗に悪態をつきつづけてきた高専生8人も、気持ちよかったと笑顔。
「卒業旅行にいいお祭りはないか、県内を探してやってきました。お供え物の奪い合いでライバルとかも生まれて楽しかったです!」
昨年よりも参加者が多かったという悪態まつり。毎年12月第3日曜日の開催で、次は2013年12月15日です。奪い合い観戦が楽しすぎて、気づくと手の中にはお供え物が何ひとつなかった筆者……ばかやろー!
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・2012年、人類滅亡するってホント? 観光ついでに現地の人に聞いてみた
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