「インターネットこそ将棋が切り拓くべき分野」――12月18日に逝去した日本将棋連盟会長・米長邦雄氏は確固たる信念を持っていた。将棋をより多くのファンに届けるべく、ニコニコ生放送でタイトル戦のネット中継をスタートさせ、コンピュータとの真剣勝負「電王戦」には率先して挑戦した。それらの配信を任されたドワンゴは「会長の英断」により、将棋とネットが結びついたと明かす。ニコニコ生放送の将棋中継は、従来のイメージを塗り替える“新しいコンテンツ”として評判をよんでいる。
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●将棋配信の現場へ 森内俊之名人が語るニコ生
11月21日に開催された第25期竜王戦(主催:読売新聞)第4局2日目。東京・渋谷区の将棋会館道場では、森内俊之名人と藤田綾女流初段が、ニコ生向けの大盤解説を行なっていた。視聴者がコメントを書き込み、リアルタイムに交流できることが、ニコ生の最大の特徴。もちろん2人もコメントが流れる画面を見ながら、解説を進めていく。
将棋中継では、ネットならではの自由な雰囲気が漂う。例えば「ウティ(森内名人)」「あやっぺ(藤田初段)」など、視聴者が棋士を“あだ名”で呼ぶことも珍しくない。タイトル戦中、棋士が午前と午後に食べるおやつに注目が集まったり、解説者による雑談など、勝負内容以外で盛り上がるポイントが度々あるのだ。この対局では、藤田初段が「名人のプロポーズの言葉は何ですか?」と質問を読み、森内名人が「はい?」「投了したい」「余計なお世話ですね」と続ける斬新なやりとりも披露された。
もちろん勝負の行方を見つめる目は真剣だ。応手については多くの視聴者が検討するため、緊張感が生まれている。的確な指摘をする“野生のプロ”、そして“野生の竜王”(渡辺明竜王が自宅からコメントしていたらしい)の存在も確認されている。
森内名人は、ネット中継について「臨場感がリアルタイムに伝わる」「将棋を雰囲気で楽しむファンが増えている」と変化を肯定的に受け止める。おやつやあだ名など、予想しなかった方面で盛り上がることについても「自由に楽しんで欲しい」というスタンス。スポーツ観戦で激をとばすように「好きなことを言って盛り上がってもらいたい」
●ドワンゴ「米長会長の英断に応えなければならない」
ニコ生の将棋コンテンツを担当するのは、ドワンゴ武田同史さん。企画の立ち上げから、交渉、現地でのセッティングなど、一手に引き受ける要の人物だ。武田さんがドワンゴに入社したのは2010年10月のこと。ちょうどニコ生の公式番組が充実してきた時期だった。はじめは、川上会長の好きな囲碁の番組の担当者として声がかかり、同年12月の「小沢一郎×与謝野馨囲碁対局」(参考:与謝野トライアスロン)に関わった。
一方で武田さんはドワンゴ出社初日から偶然にも将棋連盟に赴く機会が発生するなど、将棋との縁も深く、先方と話し合うたびにネットへの熱意を感じていたという。米長会長は、かねてからネット中継の必要性を訴えており、5年かけてコンテンツホルダー(タイトル戦を主催する新聞各社)から配信許可を得た。「将棋が好きで世に広めたい」――全員に共通した思いがあってこその出来事だった。
ニコ生はタイトル戦の中継先として直々に指名が入り、2011年2月の棋王戦(主催:共同通信)で中継デビューを果たした。配信前には「人気が出るのか?」と社内からも心配する声が上がったというが、いざフタをあけてみると大盛り上がり。将棋のペースはニコニコ向きなことが明らかになった。例え、指手に時間がかかろうとも、コメントが流れることで次々とミニドラマが発生する。連盟の後押しによりタイトル戦中継が実現したことで、武田さんは「会長の英断に応えなければならない」と気が引き締まったと語る。
ところで、ニコ生の将棋中継は5人前後のチームで運営している。地上波中継と比較すると、ネット配信は必要な機材は少ないものの、撮影クルーの人数は数分の1の規模。タイトル戦が始まると、武田さんは現地入りしてカメラ・照明・配線等、さまざまな準備に取りかかる。これにより、月の大半は社内にいないのだ。2012年に「電王戦」「名人戦」「超会議」とビッグイベントが立て続けに開催された時は、疲労困ぱいになったそうだ。それでも、現場ならではのヒリヒリした雰囲気は格別だという。
「ニコ生で将棋のルール覚えた。」――こうした手紙がニコ生あてに数多く寄せられている。ニコ生ではこれまで将棋のタイトル戦をすべて無料で配信しており、現状では有料化は考えていない。ニコニコのユーザーの中心は20代の若者だが、最近は40代、50代も増加し、将棋中継が潜在的なファンへのアプローチになっていると手応えを見せる。
武田さんは将棋中継に関わったことで、棋士たちに魅了され将棋がより好きになったと断言する。1つの芸に秀で、そこに人生をかける人間の姿、背景にあるドラマをもっと伝えたい――この時、大きな武器になりうるのが映像作家・佐藤大輔さんのプロモーションビデオだ。総合格闘技イベント「PRIDE」の選手紹介映像で有名な“あおりVアーティスト”が実はニコ生でも暴れまわっている。「電王戦」第2回のPVは自信作だ。
A級棋士も参戦することになった“人間vsコンピュータの5対5マッチ”は、現場の覚悟を間近で感じている分、「必ず満足してもらえる内容になる」と武田さんは自信を隠さない。ニコ生の将棋中継は10万単位の来場者を記録しているが「もう一桁違う数字を目指したい」という。「既存の将棋ファン、いまだ知らないファン、どちらにも突き刺さるポテンシャルは間違いなくあります」――来年もネットで進化する“将棋”の面白さから目が離せない。
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将棋中継では、ネットならではの自由な雰囲気が漂う。例えば「ウティ(森内名人)」「あやっぺ(藤田初段)」など、視聴者が棋士を“あだ名”で呼ぶことも珍しくない。タイトル戦中、棋士が午前と午後に食べるおやつに注目が集まったり、解説者による雑談など、勝負内容以外で盛り上がるポイントが度々あるのだ。この対局では、藤田初段が「名人のプロポーズの言葉は何ですか?」と質問を読み、森内名人が「はい?」「投了したい」「余計なお世話ですね」と続ける斬新なやりとりも披露された。
もちろん勝負の行方を見つめる目は真剣だ。応手については多くの視聴者が検討するため、緊張感が生まれている。的確な指摘をする“野生のプロ”、そして“野生の竜王”(渡辺明竜王が自宅からコメントしていたらしい)の存在も確認されている。
森内名人は、ネット中継について「臨場感がリアルタイムに伝わる」「将棋を雰囲気で楽しむファンが増えている」と変化を肯定的に受け止める。おやつやあだ名など、予想しなかった方面で盛り上がることについても「自由に楽しんで欲しい」というスタンス。スポーツ観戦で激をとばすように「好きなことを言って盛り上がってもらいたい」
●ドワンゴ「米長会長の英断に応えなければならない」
ニコ生の将棋コンテンツを担当するのは、ドワンゴ武田同史さん。企画の立ち上げから、交渉、現地でのセッティングなど、一手に引き受ける要の人物だ。武田さんがドワンゴに入社したのは2010年10月のこと。ちょうどニコ生の公式番組が充実してきた時期だった。はじめは、川上会長の好きな囲碁の番組の担当者として声がかかり、同年12月の「小沢一郎×与謝野馨囲碁対局」(参考:与謝野トライアスロン)に関わった。
一方で武田さんはドワンゴ出社初日から偶然にも将棋連盟に赴く機会が発生するなど、将棋との縁も深く、先方と話し合うたびにネットへの熱意を感じていたという。米長会長は、かねてからネット中継の必要性を訴えており、5年かけてコンテンツホルダー(タイトル戦を主催する新聞各社)から配信許可を得た。「将棋が好きで世に広めたい」――全員に共通した思いがあってこその出来事だった。
ニコ生はタイトル戦の中継先として直々に指名が入り、2011年2月の棋王戦(主催:共同通信)で中継デビューを果たした。配信前には「人気が出るのか?」と社内からも心配する声が上がったというが、いざフタをあけてみると大盛り上がり。将棋のペースはニコニコ向きなことが明らかになった。例え、指手に時間がかかろうとも、コメントが流れることで次々とミニドラマが発生する。連盟の後押しによりタイトル戦中継が実現したことで、武田さんは「会長の英断に応えなければならない」と気が引き締まったと語る。
ところで、ニコ生の将棋中継は5人前後のチームで運営している。地上波中継と比較すると、ネット配信は必要な機材は少ないものの、撮影クルーの人数は数分の1の規模。タイトル戦が始まると、武田さんは現地入りしてカメラ・照明・配線等、さまざまな準備に取りかかる。これにより、月の大半は社内にいないのだ。2012年に「電王戦」「名人戦」「超会議」とビッグイベントが立て続けに開催された時は、疲労困ぱいになったそうだ。それでも、現場ならではのヒリヒリした雰囲気は格別だという。
「ニコ生で将棋のルール覚えた。」――こうした手紙がニコ生あてに数多く寄せられている。ニコ生ではこれまで将棋のタイトル戦をすべて無料で配信しており、現状では有料化は考えていない。ニコニコのユーザーの中心は20代の若者だが、最近は40代、50代も増加し、将棋中継が潜在的なファンへのアプローチになっていると手応えを見せる。
武田さんは将棋中継に関わったことで、棋士たちに魅了され将棋がより好きになったと断言する。1つの芸に秀で、そこに人生をかける人間の姿、背景にあるドラマをもっと伝えたい――この時、大きな武器になりうるのが映像作家・佐藤大輔さんのプロモーションビデオだ。総合格闘技イベント「PRIDE」の選手紹介映像で有名な“あおりVアーティスト”が実はニコ生でも暴れまわっている。「電王戦」第2回のPVは自信作だ。
A級棋士も参戦することになった“人間vsコンピュータの5対5マッチ”は、現場の覚悟を間近で感じている分、「必ず満足してもらえる内容になる」と武田さんは自信を隠さない。ニコ生の将棋中継は10万単位の来場者を記録しているが「もう一桁違う数字を目指したい」という。「既存の将棋ファン、いまだ知らないファン、どちらにも突き刺さるポテンシャルは間違いなくあります」――来年もネットで進化する“将棋”の面白さから目が離せない。
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